のど飴戦士アイバチャンSeason11.5 【同じ空の下、紡ぐ物語〜小話集⑦】
⑦小話〜初恋
※これはフィクションです。登場する人物、場所、団体等は実際のものとは一切関係ございません。
あらかじめご了承ください。
@新幹線
(スマホをポチポチ…)
シゲパパ
「全然使いこなせへん…
ガラケーの方が楽やった…。
目ぇショボショボするし。
文字拡大出来るとこと出来へんとこあるし。
老眼にはしんどい。」
(通知)
ダイキ…。
これ絶対お土産の催促しとるやろ。
ふふ、可愛ええ奴やな。
あーダメだ。
また親バカやってる…。
親父大丈夫かな。
さっき、親父が倒れて入院したって聞いた。
町から大阪までは2時間もかかる。
着いた時にはケロっとしてたらいい…なんて考えてたけど。
親父は余命宣告を受けていたし、2時間もかかったら最悪の事態も考えておかないとしていけないか。
それまで母さんは1人で不安やろうな。
治療のことや延命のこと、1人で決断しないといけないこともあるだろう。
…ちゃんと親孝行しとけばよかったな。
@43年前・道頓堀
生まれたときの名前は、藤井マオ。
道頓堀生まれ、道頓堀育ち。
実家は古くから続く老舗の茶屋であり、
親父は茶道・藤井流の家元でもあり。
道頓堀のはずなのに、道頓堀っぽくない景観なのが俺として面白くてお店大好きやったっけな。
礼儀作法に関してはすごく厳しい家庭やったけど、割とのびのびと色んなことをやらして貰てたかな?
サッカーも習ってたし。
あれは…俺がまだ10歳の時やった。
近所の中間さんちで赤ちゃんが産まれて、その日はちょうど退院の日。
道端で遊んでたらたまたま中間さん家族に会うた。
マオ
「こんにちは〜。」
中間のおじさん
「マオくんこんにちは〜!
今日もちゃんと挨拶してええ子やなぁ。」
「ええーん。」
マオ
「あ、赤ちゃん泣いちゃった。」
中間のおばさん
「大丈夫よ。
赤ちゃんはお話しできない代わりに泣くんよ。
将来じょうずにお話できるようになるために、肺のトレーニングしてるんやて。」
マオ
「へー!
生まれてもうトレーニングかぁ!
赤ちゃんやのに偉いなぁ。
俺、近所に住んでるから宜しくな。」
赤ちゃん
「おぎゃー」
マオ
「また泣いちゃった。
名前はなんて言うん?」
中間のおばさん
「智子やで。」
マオ
「ともこちゃんか。可愛いな…
今度会いに行ってもええ?」
中間のおばさん
「いつでもいらっしゃい!
智子も喜ぶわ〜。」
中間のおじさん
「ともこ〜!
マオくんがお友達になってくれたでー!
良かったなぁ!
よしよし!」
赤ちゃん
「えぇーん!」
智子ちゃんと会ったときに、今までに感じたことのないときめきを感じた。
鼻歌を歌いながらスキップして帰路に着く。
マオ
「ただいま〜!」
マオの母
「おかえり〜。
あら、マオどうしたの?
恋でもした?」
そうか…
オカンの一言でこの気持ちに気づいた。
俺の初恋は、生後数日の赤ちゃんやった。
それからは智子ちゃんによく会いに行った。
子守したり、一緒に遊んだり。
小学生になったら智子ちゃんから俺の家に来てくれることが増えた。
友達を連れてくることもあって、みんなの面倒を見てあげてた。
勉強も教えてあげた。
智子ちゃんは、俺のことを
お兄ちゃん、と呼んで慕ってくれた。
俺の初恋は何年経っても消えることはなかった。
俺は照れ隠しで平然を装ってたけど、父さんと母さんにはデレデレしてたのがバレていたらしい…。
俺が智子ちゃんの話をすればクスクスと笑っていた。
そしてまた照れ隠しをしようとしてムキになって。
何やかんやで幸せやったんやけどな。
そして、こんな幸せな日々がいつまでも続くと思っていた。
・・・あの時までは。
俺が18歳の頃、大学進学で東京へ行くことになった。
大好きな智子ちゃんと離れ離れになりたくなかったんやけど。
4年経ったら帰ってくる、そんなつもりやった。
でも、智子ちゃんは8歳、帰ってくる頃には12歳。
浮ついた話の1つや2つ出てき始めてもおかしくない年頃。
ちょっと早いけど、可愛らしい智子ちゃんならあり得ると思う。
せやから俺は…
マオ
「なぁ、智子ちゃん。」
智子
「お兄ちゃんなーに?」
マオ
「俺さ、東京に行くことになったんや。」
智子
「え?遠くに行っちゃうの?ぐすん」
マオ
「あ、ごめん。泣かないでな。
…たまには帰ってくるし、4年後には道頓堀に帰って来ようと思ってるから。
そん時また会うてな?」
智子
「絶対帰ってきてね。お願い。約束やで。」
マオ
「わかった。
あの、さぁ。智子ちゃん。
10個も歳離れてるのにごめんな。
俺、智子ちゃんのこと好きなんや。」
智子
「え?」
そう言うと智子ちゃんはまた泣いてしもうた。
智子
「お兄ちゃん、ごめんなさい。
気持ちは嬉しいんやけど…。」
マオ
「ごめんな。」
その後、俺は東京に行った。
東京に行ってからも何度か大阪に帰ってきたことはあったけど、気まずくて智子ちゃんには会いに行けへんくて、実家くらいしか行かれへんかった。
約束したのに。
両親からは智子ちゃんがずっと会いたがってた、俺が帰ってくるのをずっと楽しみにしていた、と聞いたんやけど、その言葉を素直に受け取ることもできんくて。
悩んではみたけど結局は会いに行かへんかった。
そんな俺を、両親は温かく見守っていてくれた。
智子ちゃんに俺がいつ帰ってくるのか尋ねられても、忙しくてすぐに帰ってしまったり、暫く帰ってきてないことにしてくれていた。
-それから4年後。
単位は取得、卒業論文も提出し、あとは卒業を待つだけ。
その時、実家から1本の電話が…。
中間家のお父さんが亡くなった。
どうやら防犯用の仕掛けに自分で引っかかってしまったらしい。
一家の大黒柱を失い、中間さんちの家族4人が困り果ててると聞いた。
中間家のお母さんが働きに出ることになり、智子ちゃんは中学校に進学しないで幼い弟の面倒を見ると言っているそう。
俺が、この家族を守りたいと思った。
大学に退学届を出し、急いで大阪に戻ってきた。
道頓堀に着き、急いで中間家に向かうと、
智子ちゃんは他の男に抱きついて泣いているのを見た。
近所の若いお巡りさんらしい。
俺が、智子ちゃんを助けたい。
この家族を守りたい。
そう思っているはずなのに…
足が地面に張り付いたように、一歩も動かなくなってしもうた。
なんでやねん…。
せや、智子ちゃんは俺のこと好きでもなんでもないんや。
なんで俺に助けられなあかんねん。
なんでこんな簡単なことに気付かへんかったんやろ。
勘違いも甚だしいやん。
アカン、大学…やめてきてもうた。
せっかく両親に通わして貰うたのに、親父、母さん、ホンマにごめん。
あと卒業するだけやったのに、結局学歴付かんかった。
智子ちゃんを見ていて思った。
多分なんやけど、今はあのお巡りさんのことが好きなんやろうな。
おい、あの男!
なんで智子ちゃんに冷たくすんねん!
そうか・・・。
あいつは中間のおばちゃんのことが好きなんや。
あかん、俺がなんとかせな。
あいつには任せられへん。
でも、このままでは…俺は…会えない。
智子ちゃんに向ける顔がなかった。
藤井マオとして智子ちゃんの前に現れるのはどうしても抵抗があった。
自信をつけたかった。
それで俺は。
全身を整形して、名前も変えて、全く別の人物になった。
この姿でたくさん優しくしてやる。
甘えさせてやる。
一家の苦労から救ってやる。
そう決意し、俺は全てを捨てた。
実家には公衆電話から連絡した。
マオの父
「もしもし、マオか!?
あぁ、良かった。
学校から電話があって、退学届出して帰って行ったって聞いたんや!
ウチに帰って来ぇへんし心配したやないか!
今どこにおるんや?」
マオ
「オトン、ごめん…ホンマ、ごめんなさい。
勝手なことして。
せっかく通わしてくれたのに。」
マオの父
「お前のことなら何か考えがあるんやろうけど、学校は退学届を保…」
マオ
「俺はもう死んだと思って生きていって欲しい。
もう、俺のこと…気にせんといて。
親不孝ばっかりでごめん…。
ホンマ、ごめん…。」
(ガチャッ)
今考えるととんでもないことをやってしまったと思う。
若気の至りどころやない。
勿論、両親は俺のことを探し始めていた。
尋ね人のポスターが近所に数種類貼ってあるのを見たことがある。
それから、俺は『重岡金一郎』として智子ちゃんの前に姿を表した。
困ってそうですね、何かお手伝いできませんか?と声をかけた。
初めは不審者と疑われたが、お兄さんと呼んですぐに懐いてくれた。
俺は、"智子ちゃん"と呼ぶと、なんとなくバレるような気がしたから"智子"と呼ぶようにした。
智子は中学校に行かないというので、弟の子守は代わりにするから学校には行くように説得した。
家族の食事量はかなり少なく、智子は食べ盛りの男兄弟3人にご飯を譲っていたのでかなり痩せ細っていた。
それで、貧血で倒れることが頻繁にあった。
鉄分入りのウエハースを持って行って食べさせたり、家族の食費を出したり。
おばさんには絶対返す!
…と言われたが、断った。
3年後、智子が中学校を卒業。
高校には進学せず、弟の面倒を見ながら家事を手伝うようになった。
智子の弟の面倒を見なくても良くなった俺は警察学校に行くことになった。
大阪の警察学校に落ちてしまい、ちょっと遠いけど兵庫に。
あとでわかったのが、警察学校が全寮制だということ。
また智子と離れ離れになってしまう。
不安なんやけど、俺も収入がない。
整形代も高かったし食費も…
意地を張って受け取らなかったけど、これからはもう働くしかない。
智子に警察学校に入ることを話すと、また泣いてくれて。
智子
「お兄さん。私と付き合ってください。」
先に言われてしまった。
智子
「小さい頃から仲良くしてくれてた近所のお兄ちゃんがいて、その人、東京の大学に行くときに、告白してくれて…
ホンマは私も大好きやったから、すごく嬉しかったんやけどな。
友達の桐子ちゃんも、お兄ちゃんのこと好きで…
せやから、私諦めようと思って、振っちゃったの。
そしたらな、たまに帰ってくるって言うてくれてたのに。
4年経ったら帰ってくるって約束してくれたのに…
一回も会うて来てくれへんし。
4年経っても帰って来えへんの。
おじさんとおばさんに聞いたら、大学辞めて行方不明になってるって…。
ほら?近所に人探しのポスター貼ってあるやろ?
もう、3年見つかってないの…。
絶対、私のせいなの…。
せやからね、もう私のせいで誰かを失いたくないの…。」
見たことないくらい智子が泣きじゃくって、"お兄ちゃん"への想いを語ってくれた。
ごめん、その人。
俺なんやけど。
もう、ホンマに帰ってくることはない。
智子の想いをこんな形で知ることになるとは、思っても見なかったし、まさか俺のこと想ってくれてたなんて知らなかった。
俺は取り返しのつかないことをしてしまった。
人生、全て捨てたのが誰のためにもなってへんなんて。
愛する人のためですらなかったなんて。
後悔しても遅い。
今更本当のことなんて言えない。
だからといって俺が元の姿に整形し直したら、智子は"お兄さん"に会えなくなって、また大切な人を失ってしまう。
なんてことしたんや。
こんなつもりやなかったのに。。。
でも、このまま貫き通すしかない。
智子と付き合うて、俺は警察学校へ行った。
外出許可が出たときには必ず智子に会いに行った。
卒業して兵庫の交番に配属になっても休みの日は大阪に帰った。
たまに智子が来てくれることもあった。
付き合ってることは職場の人に言ってなかったので、近所の子が会いに来たくらいにしか思われてなかった。
智子が20歳になったとき。
「智子。俺と結婚してくれへん?」
「はい、よろしくお願いします。」
刑事課への異動が決まって、頻繁に帰れなくなったときにプロポーズした。
結婚して一緒に暮らしたら少しでも長く一緒にいられる。
翌年には長男、4年後には次男が生まれた。
その後はなかなか子宝に恵まれず不妊治療をして、次男が生まれて15年後にようやく三男が生まれた。
運良く助かってはいたものの、刑事やってると死にかけることは何回もあったから、次男が生まれてからは交番勤務に戻してもらった。
こうして家族5人、ネコのタマも含めて6人?
楽しく暮らしていた。
あとは読者さんの知っている通りの生活を送っていて、ホンマに幸せな日々を過ごしていた。
それでも自分の両親のことも忘れたことはなくて。
自分が親の立場になったら、ますます親のことを考えることが増えてきた。
ごめんな、親父。
とんでもない息子で。
最期くらいは親孝行させてくれ。
(終)
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