のど飴戦士アイバチャンSeason11.5 【同じ空の下、紡ぐ物語〜小話集⑧】
⑧小話〜俺の乗り越しラブストーリー
※これはフィクションです。
登場する人物、場所、団体等は実際のものとは一切関係ございません。
あらかじめご了承ください。
「トモちゃん!楽しかったなぁ〜!」
『ねー、ダイちゃん!
そろそろ列車来ちゃうね。』
「やーん、もぉ!
これ乗ったらお別れが近づいちゃう!
さびしい!」
『もうちょっと一緒にいれるよ!』
-夕日の見える駅。
手を振り賑わう人の群れ。
ここではきっと、たくさんの人が出会い、別れ、恋をしたりなんかして。
ドラマのような現実世界がたくさん繰り広げられているんだろう。
そして俺も。
恋人とのデートの帰り。
デートとは言っても今はコロナ渦だから、ちょっと学校の近くをプラプラ歩いてただけ。
それだけでも幸せ。君といればなんだって楽しいし俺は笑顔になれる。
そして多分、君も同じ。
列車に乗り、君と隣同士で座る。
俺は憧れだったサッカー選手になることになった。
もう契約も済んでる。
学生時代からめちゃめちゃ有名やったから、自慢やないけど知名度めっちゃあって。
そのせいか、最近は週刊誌の人が寄り付くようになった。
俺の中の108の煩悩全てが君と手を繋ぎたがってたけど、それはちょっと我慢。
そんなこと考えてたのも恥ずいから、顔が赤くなってる気がしてさらに恥ずい。
君やから、そんなこと考えられる。
これって多分めっちゃ幸せなことなんやと思う。
君と出会って6年、付き合うて6年。
これだけの間、君に幸せを貰うてたことも幸せ。
ホンマ、感謝しかない。
心の奥底でそんなことを考えながら君とまたいろんな話をして。
へへっ、内容は俺たちだけの秘密な。
途中で年配の方が乗車してきたから、俺は席を立って君の前に立つ。
君の横顔はめっちゃ綺麗やけど、正面から見てもめっちゃ可愛い。
正直、俺はどっちの君も好き。
列車に揺られ帰路につく俺たち。
向かってるのは、俺は地元。
君は今住んでるところ。
俺、まだ実家暮らしやから。
でも、本当に向かってるのはどこなんやろう。
俺たちの未来。もっと幸せになるための未来。
もっと君と一緒にいたい。
そのためならポケットの中で切符を握りしめたまま、乗り過ごしてしまおうか。
『ダイちゃん、着いたよ。
乗り換えなきゃ。』
「ホンマやな。あっという間や。」
ホンマや。。。
もっと一緒に居たかった。君と。一緒に。
多分、このまま一緒やったら、君をたくさん困らせてしまうやろう。
実は俺、さっきから気づいてた。
俺の後ろ、座ってたときは正面にいた人。
俺たちにカメラ向けてたんや。
多分、記者の人かもしれん。
俺は、君のこと守りたい。
そのために、1番いい方法を考えないと。
俺もすごく心苦しいけど。他にあるのだろうか…
「じゃあな、気をつけてな。」
『またね!』
僕と君との間を引き裂くようにゆっくり閉まっていくドア。
トボトボと歩き出す俺。
俺、何してるんやろ。
今日も言い出せなかった。
こんなに大好きなのに。
今まで俺は、君へたくさんの愛を伝えすぎた。
そして俺は、伝えたたくさんの愛を覚えすぎている。言い出せないのはそのせい。
でもなぁ、よくよく考えてみたら。
俺の昔からの夢はサッカー選手やなかった。
かっこいい旦那さん、家族想いな優しいお父さん。
父ちゃんをみて感じたものそのままが憧れであり夢でもあった。
サッカー選手にもなりたかったんやけど。
いや、俺、昔から頭悪いから他に道があると思ってへんかった。
そんな俺が家族養える収入を得られるのはサッカーだけやって。
大切な家族を失うたら、俺はサッカー選手でいる意味がないんや。
せや!
俺、トモちゃんと別れたらあかんねや。
何でこんなことに気づかんかったんやろ?
アホや。
俺、ホンマアホや。
危ない、ただトモちゃん泣かせるだけのことを言うところやった。
待てよ?
じゃあ俺どうすればええねん!
サッカー選手になったらマスコミに追われてトモちゃん不幸になるで?
サッカー選手やめたら家族養えへんで?
俺はカバンからスマホを取り出し、電話をし始めた。
相手は所属する予定のクラブチームのスタッフさん。
「すいません、ちょっと相談なんですけど。
さっき帰りの列車の中で週刊誌の人っぽい感じの人にカメラ向けられとって…
一緒にいた彼女のことも撮られてると思うんです。
相手の子は普通の高校生やし、
もうやめて!って言いたいんですけど…
はい、はい…わかりました。」
おれ、絶対幸せにしたるからな。
君のこと、愛してる。
(終)
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