のど飴戦士アイバチャンSeason11.5 【同じ空の下、紡ぐ物語〜小話集⑮】


⑮小話〜銀色の銃弾










※これはフィクションです。
登場する人物、場所、団体等は実際のものとは一切関係ございません。
あらかじめご了承ください。














@森さん家









母ちゃん
「あんたちゃんとご飯食べてんの?」
「こんな派手な頭して、職場で怒られへんの?」
「すごい警察官が頭黄色かったからって、あんたが真似してすごい警察官になれるわけないやん!」








あーあ。
久しぶりに実家に帰ってきたはいいけど。

めっちゃ言われる。しんどい。








うわー。もう帰ろうかな…。








重岡さん一家に突撃したら晩ごはん間に合うかな。










せや、今日土曜日やしな。



まーくんも重岡さんちに行ってるんちゃうかな?







かちょー、オレが実家帰るって聞いて安心しとったんやけど。








オレがおうちにおじゃましたら絶対残念がるやろうな。











母ちゃん
「あんた、肩悪いんやろ?
力仕事せぇへん方がええんちゃう?
町の婆さんたちみんな言うてんで?
あんたに重いもの持ってもらったって。」

「危ない仕事あるん?
危なくなったらとりあえずあんただけでも逃げとき。」









そういうヌルい仕事ちゃうのわからへんのかな?
刑事ドラマとか警察24時とか。
全く見ぃひんの?
…さすがに警察官の仕事って何となくでもわかるやろ?








ホンマ、昔からオレに興味ないもんな…。
仕方ないか…。








不貞腐れてる顔してんのが兄ちゃんにはわかったんやろか?










兄ちゃん
「坊丸、母さんはずっとお前のこと心配してたんやで。」









母ちゃん
「せやで、たまには帰って来ぃ。
一目でええんやから。」











そんな急に言われても。
母ちゃんに対しては積年の恐怖と苦しい記憶があるから、どこまで信じていいのかわからん。
心配してるといいながら、あとで裏切られるような気がして。
信じるのが1番怖い存在…そんな気がする。







そのくらい。
オレと母ちゃんとの間の確執は大きいし、溝は地球が真っ二つに割れそうなくらい深い。













母ちゃん
「そういえばこないだ、所長さんがウチに来て行ったで?」











坊丸
「え?かちょー、なんでここに?」









母ちゃん
「いつもの探し物やって。」










坊丸
「探し物?…え?あれのこと?

まだ探してたん?

もう20年も前やのに。」










課長の探しもの。
それはオレが小さい頃にこのウチで起こった事件に関係するもの。








オレが5歳くらいのとき。
この家の中で立てこもり事件があった。

オレが昼寝してる間に母ちゃんが買い物に行ってて、目を覚ましたら母ちゃんがおらんかった。
すごく甘えん坊やったオレはさみしくて、ぐずりはじめたときにインターホンの音がしたから、母ちゃんが帰ってきた!と思ってドアを開けちゃって。
拳銃を持った犯人によって人質にされた。







そんとき助けてくれたのが今の上司、
俺が『かちょー』と呼んでいる人。
兵庫県警地域課の『課長』やから。
当時は敏腕刑事やった。








オレの事件で犯人に撃たれ、瀕死の重傷を負うたのがきっかけで交番に異動したんやて。

あんときのカッコいい刑事に憧れて警察官になったんやけど、まさか最初に配属された交番であの人の部下になるとは。








課長の探しものというのは、そん時の銃弾。








犯人が撃ったのは2発。




1発は誰にも命中せず、今でも2階のベランダの壁にめり込んでる。




もう1発はオレを抱きかかえるようにして庇った課長の身体を貫通したんやけど、銃弾自体は家のどこからも見つかってない。







もちろん、課長の身体にも残っていない。








その、もう1発を課長は20年間ずっと探し続けている。
多分、刑事の勘というものなんやろか。
嫌な予感がしているんやろう。
せやから。課長の中ではまだ、あの事件は終わってないんやと思う。








その銃弾の場所を知っているのは…
たぶんオレしかおらん。








そう、オレ知ってんの。
てか、持ってんの。








そして、課長の嫌な予感が当たっているのも知っている。

事件があった日の夜から。










事件の直後は恐怖と混乱で、なーんにも気づかんかった。









他の刑事さんに病院に行くように勧められたときも、
「助けてもろたから大丈夫!
おかげさまで無傷やわ!」
って笑顔で断った。
痛くないし。ウチ、お金ないし。





そのあと右肩に痛みが出始めて、でも病院断っちゃったし、せっかく刑事さん守ってくれたし、母ちゃんにも何か怖くて言い出せんかった。








痛いとこを鏡でよくよく見たら、右肩に何かある。
銀色のおしりが見えてる。
ちょっと血も出てる。







見つけちゃった瞬間に突然痛みが増して、怖くて怖くて仕方なかった。
それでも、自分で何とかしようと思って必死やった。






自分で取ろう思ってもすごく痛いし、指が届かなくて血しか出て来ぇへんから、肩に絆創膏貼って隠すことにした。







あの時の服は穴が開いているなんてわかんないくらい血だらけやったから捨てたし。
傷が塞がるまでは証拠隠滅し続けた。








痛みはだんだん慣れてきて、16歳まではちょっと痛いだけであとは何事もなく、なんなら野球出来るくらい普通に過ごしてたんやけど。








甲子園の決勝でお兄と対決したあと。
インタビューを受けている最中に体調が悪くなった。








右肩の痛みと40度近くの高熱が出て、病院に行ったら、『それ』はくっきりとレントゲンに映り込んだ。









傷口が炎症起こして高熱が出たらしい。
借りてた奨学金を節約して貯めてたから、そのお金でこっそり手術は受けれたんやけど、思いのほか銃弾の周りに血管がたくさん巻きついていたらしい。
手術中に大出血起こして、しばらく意識戻らんかったんやて。
付き添いは家族が遠方な上に都合が付かないから来れない、と言って1人で手術を受けた。
いざという時の緊急連絡先はデタラメばっかり書いてたから手術中のホンマにいざという時には誰にも連絡つかなかったそう。
意識が戻ってから、お医者さんに注意を受けた。








入院とリハビリが長期に及び、日常生活は問題なく送れるようにはなったものの、もう野球は難しいかなってお医者さんに言われた。








あぁ、もうみんなと遊べないのかって。
ショックを受けたのをよく覚えてる。









まぁ、学校の先生たちのご厚意とダチの協力で留年は免れたからそれでいっか!
と思うようにした。








兄ちゃんが思い出したかのように話し始める。









兄ちゃん
「坊丸さ、あのあと夜中によく泣いてたよな?
肩が痛い痛いって。」








坊丸
「え?ホンマ?覚えてへんわ。」










兄ちゃん
「あん時から肩悪かったんやないかと思って。」









坊丸
「へー?そうなんかな…?」








母ちゃん
「坊丸、そうなん?」








坊丸
「ぜんっぜん、覚えてへん。」







兄ちゃん
「ごめん、今更思い出して。

まさか所長さんの探しもの…。
当たってた…わけやないよな?」








坊丸
「ちょ、え?何言うてんの!?」








兄ちゃん
「坊丸、気が動転してんで。
20年間、あるはずのものがないってことは。
他に理由が見当たらない。」









母ちゃん
「坊丸、ホンマなん?」









坊丸
「うん…。肩に当たってた。
でも、なんでやろ?
誰にも言えへんかったから、しばらく絆創膏貼ってた。
ずっと調子良かったんやけどな、甲子園のあとに悪なったから手術受けた。」








母ちゃん
「アホ!
なんでそんな大事なことすぐ言わへんの!
死んでたら、どないすんの!」








坊丸
「わ、大丈夫だから!
ほら、手術受けたから治ってるし!
もう野球出来ないよって言われたくらいで、もう完治したから!
手術中やばかったらしいけどもう…

え?あ!あ!ちゃう!あのな…」











母ちゃん

「坊丸!

助かったから良かったものの、

死んでたらどないすんの…!


嫌や…!

そんなんで怒らへんから、
いや、怒るかもしれへんけど!

別に怒られてもええやん!


生きて元気でいてくれな…。
親に息子の死に顔見せるもんちゃう!

坊丸…!」









母ちゃんが泣きながらブチギレた。
オレのために、本気で叱った。
…ってよくわかったのは今日が初めてかもしれへん。







ごめんな、母ちゃん。
















@翌日・交番








坊丸
「かちょー!おはようございます!」








シゲパパ
「ぼ、坊丸くん!?
おはよう…!?
え、なんで遅刻せぇへんの??」







坊丸
「遅刻しないとおかしいっすか?笑笑
今日たまたま困ってる人に行き合わなかっただけやんw!!」






いつもだったら通勤途中に困ってる人に行き合って、助けてから出勤するから遅刻しちゃう。






どんなに早く家を出ても必ず…。






でも今日は。
町のみんながオレの味方してくれたのかな?
…くらい、今日だけは何もない平和な朝だった。






おかげさまで遅刻せずに済んだ。










坊丸
「課長、お話があります。」







シゲパパ
「刑事課への異動はまだアカンから…」








と、言いかけた課長へ。
20年来の探しものを渡した。







坊丸
「ずっと黙っててすみませんでした。
だからもう探さんといてください。
この事件。
課長も、オレも、終わらしましょう!」








そして、終わった。
事件も、長い長い反抗期も。












(終)

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