のど飴戦士アイバチャンSeason11.5 【同じ空の下、紡ぐ物語〜小話集㉔】
㉔小話〜影の中の少年たち
※これはフィクションです。
登場する人物、場所、団体等は実際のものとは一切関係ございません。
あらかじめご了承ください。
♪♪♪♪♪♪♪♪〜
ホクト
「はぁ〜。
もう時間だ、出るか。」
-最近、不調だ。
体調が悪いわけじゃない。
思ったように指が動かなくて、キーボードに触れていても思ったような音色が出せない。
いつもならできる。
いや、自分ならやれる。
昔からコンクールのために死ぬほど練習して鍛えられてきた。
今でも関東随一のピアノの実力…なんじゃないかって。
前にストリートピアノを本気で弾く、っていうのをY○uTubeチャンネルで配信したことがあって。
ピアノコンクールの審査員をやっているという人からのコメントにそう書かれていた。
あれ、結構再生回数多いんだよな。
演奏中もあの人だかり、凄まじかったのを今でもよく覚えてる。
『ピアニストを目指さないか』とも言われたけど、俺は戦うことをやめたから。
たまにあの時の負けず嫌いが発動してしまって、オーディション受かるために!
と、熱くなることはあるけど。
あれ以来、本気でクラシック弾くのはやめた。
一度やめたら、あとは努力を続けた人たちが強くなっていくから、俺の出る幕はない。
それに俺は、バンドで弾くキーボードが本気で楽しいと思えちゃったから。
これからも、ずっと、やっていきたいと思えるから。
しかし、もうすぐメンバー6人中4人が大学卒業して社会人になるから、簡単に集まれなくなるだろう。
魔物退治に駆り立てられるメンバーだっている。
あいつらは無事に帰ってきてくれる、
なんなら無傷なんじゃないか。
…と俺は思ってる。
でも、全てのことに絶対はない。
これからどうなっていくかわからない。
今はみんなが、今出来る音楽を、全力でやっている…。
俺は、アイツらと作り出す良質な音楽を、ちゃんとたくさんの人に届けたい。
だから、調子が戻ってくれないと困るのよ。
ここで俺だけ止まってる訳にはいかないのよ。
くそー。
???
「あれ?ホクト?」
ホクト
「あれ、ケント?久しぶり〜。」
ケント
「高校のときぶりじゃない?」
ホクト
「いや、1回会ってる。
大学入学してすぐの頃にメンバー4人でプチ同窓会したろ?」
ケント
「そうだった!」
ホクト
「あなた東京に行って全然帰って来ないんだもの。」
ケント
「たまに帰ってくれば、ホクトの方が居なかったんだよねー。
去年なんてさ、ユーゴとケンカしたとか他のバンドに入ったとか何とか言ってたね。」
ホクト
「あー!…そうだった!
あの時は本当申し訳ない!!
ちゃんとユーゴのもとに戻りました!」
ケント
「仲直りしたみたいで良かったよ。
あいつ、お前と仲違いしてかなり落ち込んでたからさ。
相変わらず元気そうで良かったよ。
フーマからは、ホクトも元気にしてるって聞いてたんだけどね。」
ホクト
「フーマにはよく会ってる。
ユーゴのアパートの大家さんだから、たまに部屋に来るんだよね。
そして1泊して東京帰るのね。
こないだはユーゴと、ユーゴの同居人と、4人で朝まで呑んで雑魚寝してさ。」
ケント
「楽しそうなことしてんだね!
ユーゴのことなら早めにダウンしたんでしょ?」
ホクト
「もちろん!
酒弱すぎて1杯目から怪しかった!
2杯目からはジュース飲んでたはずなのに、俺の肩の上で寝始めてさ。
ケントは?今もバンド活動してんの?」
ケント
「やってるよ。
フーマもね、5人でやってるんだ。
ホクトの方はずっと3人だったよね。
大変じゃない?」
ホクト
「こっちもようやくメンバー集まってさ、6人でやってるよ。
本当、やっとよ。
3人でやってた以上に楽しいわ。」
ケント
「そうなんだ。
ホクト…何か表情暗くない?」
ホクト
「まぁね。」
-高校時代に組んでたバンドのメンバーとの再会に嬉しくなって笑顔になれた。
でも、ケントはすごく人のことをよく見ている。
本当によく気がつく奴なのよ。
近いうちにピアノ経験ゼロのユーゴに相談しようかなー、なんて思ってたんだけどね。
アイツは昔から俺の弾くピアノが好きで、俺が上手くいってもいかなくても満面の笑みでスタンディングオベーションしてた。
でも、意外といろんなことに気づけていた。
小2の時かな?
リズムの早いところを気持ちよく弾いてたら、テンポも速くなったことを指摘されたり。
そこ気をつけたらほぼ毎年コンクールで優勝出来るようになった。
ユーゴ、高校生まで楽器経験ゼロだったのがウソみたい。
多分、昔から素質はあったんだと思う。
アイツとはお互いいろんな相談をし合ってきたんだよな。
ユーゴの通う脱毛サロン決めたの俺だしな。
腕も脚もワキも綺麗にツルッツルなの、俺も加担してるからな。
あ、俺はやらないよ。
因みに、ユーゴが脱毛するって話を聞いて、何故かシンタローも通い出した。
あの野生児みたいなシンタローが脱毛って、意外でしょ?
因みに俺は、近々ジェシーも通い出すかもしれないと予想している。
ケントは、ピアノも弾ける奴、しかも俺とコンクールでいつも優勝争いをしていて、俺と同じく突然コンクール出るのやめた奴。
俺の悩みがわかるかもしれない。
そう、経験者どころかかなりの実力者。
ユーゴよりは的確な答えが返ってきそう。
と思って、俺の今の状況を話すことにした。
ケント
「あー、あるある!
俺も今キーボードやってるんだけど未だに時々あるんだよね!
でもさぁ、練習サボろうかなと思って、何も考えないで鍵盤だけ触るような日を2.3日設けてたら、いつのまにか治ってるよ。
もしかしたら心配すると悪くなるんじゃないかな。」
ホクト
「ありがと。やってみるよ。」
ケント
「これからどっか行くの?」
ホクト
「バンドメンバーと打ち合わせ、
というか、ただカフェで駄弁るだけなんだけど。」
ケント
「ユーゴも一緒?」
ホクト
「そう、相変わらず一緒にやってるよ。
あいつとはこれからも長い付き合いになりそうだ。」
ケント
「お前ら本当ニコイチだったもんな。」
ホクト
「まぁ、前ほどじゃないよ。
さっきも話したけど、アイツ今、ほかの友達と一緒に住んでるし。
その友達がさ、ユーゴのこと大好きで!
俺に嫉妬してんだよね。」
ケント
「あ、わかった…!
あのー、ジェシーだ!!
イケメン外国人の!!」
ホクト
「そう!そう!
フーマから聞いてたろ?」
-外国人ということにしておこう。
一応、そういう設定でカタカナの名前にしてるし。
魔物だなんて言ったらビビるだろう。
ケント
「ジェシーの話は聞いてるだけで面白かった!
今度詳しく聞かせてよ!
また同窓会でもしよう!」
ホクト
「そうね。
ユーゴにも伝えておく。」
-また話し過ぎたかな。
…完全に遅刻だ。
(終)
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