のど飴戦士アイバチャンSeason11.5 【同じ空の下、紡ぐ物語〜小話集㉖】
㉖小話〜治してあげたい。
※これはフィクションです。
登場する人物、場所、団体等は実際のものとは一切関係ございません。
更新頻度の都合により時間軸に乱れがあります。作品時期は冬の出来事です。
あらかじめご了承ください。
(ガチャ)
ユーゴ
「アンパン男、ただいまぁ〜!
さっむ!
ジェシーいままでこんな寒い部屋に居たの!?
ありえねぇ!!
エアコンの温度上げよ。」
(カチ、カチカチ…)
ユーゴ
「あれぇ?おっかしいなぁ。
エアコン動かねぇ!」
-去年壊れたエアコン。
いつの間にか復活してると思って使っていたんだけど、また動かなくなった。
ユーゴ
「イス、これに乗ってと。」
(バンバン、バンッ!…)
昔ばーちゃんが機械類叩いて治るかどうかやってたな。
でも、叩いてみたところで…なんともならないみたいだ。
ユーゴ
「手洗い、うがい。顔も洗って…。
服も洗濯もしちゃおう。
寒っ、風呂入ろ。」
(ピッ、ピッ、、ピーーーーー!!)
ユーゴ
「え?何の音?
今度は洗濯機か!!」
-帰ってきて回し始めた洗濯機から、聞いたことのないエラー音が鳴り響く。
電源を落としてみたらまた動くようになったけど、またすぐにけたたましく音が鳴ってまた止まっちゃった。
(バンバン)
-そうだよね。
叩いたところで何にもならないね。
(カチ、カチカチカチ)
-脱衣所の電球切れちゃった。
こないだ変えたばかりなのに。
(ウーーーー。ポン、ポン、ポン)
ユーゴ
「なにこの音?
Blu-rayレコーダーからこんな音する?…
え?録画が途中で切れてる!!
嘘だろ?
俺、今朝間違いなく予約録画したよ!
ちゃんと録画は開始されてるみたいだけど、11分24秒で止まってる。中途半端。
この時間は確かジェシーも外に出てたらしく家に2人とも居なかったからリモコンは触れないし録画停止してないはず…
ブレーカー落ちてたわけじゃない。
停電もなかったはず。
ショック…。
俺の大好きなアイドルの方…
あのー、みなさんご存知の…
嵐の○葉さんが司会で。
しかも久しぶりにテレビで歌うって言うからすっごい楽しみにしてたのに…
だってさ、アイドル活動は休止してんのよ?
歌ったり踊ったりしてる姿をずーっと見てなかったのよ?
それがそれが、久しぶりに見れるはずだったのよ?…。
アイドルしてる姿、キラキラしてて本当に大好きなんだよなぁ。
え?このままだと明日のドラマも録れない?
土曜日の動物番組も、日曜日のロケ番組も?」
-今日はツイてない。
機械類がことごとく壊れる日。
確かに、引っ越してきたときに全て買い揃えたものだから。
壊れるタイミングも一緒なのだろうか。
普段なら1個壊れたぐらいでへこたれないけど、こんなにも同時に壊れちゃったら…
またか、と思うたび、心のどこかが少しずつ擦り減っていくような感覚がする。
(ガチャ…)
-玄関が開く音。
バイト帰り、いつものように海外のマフィアを彷彿とさせるオールバックに黒いスーツで迎えに来てくれたジェシー。
すれ違う人たち全員をビビらせる風貌なくせに、俺だけに笑顔を見せてちょっとコンビニに行ってくるねと言って。
玄関前まで俺を送ってからまた出かけて行った。
そのジェシーが今帰ってきたみたいだ。
ジェシー
「アンパン、ただいま。
今日もユーゴのこと守ったよ。
また僕に任せてね。」
ジェシーは玄関に置いてあるアンパン男のぬいぐるみへのあいさつがいつも独特だ。
でも今はそれどころではない。
すごく悲しい気分だ。
ジェシー
「ユーゴ、、、!!!
大丈夫!?具合悪いの?どっか痛い?」
半べそかきながらレコーダーに手を乗せて床の上に座り込む俺を見て、慌てて駆けつけてくるジェシー。
あー、心配させちゃった。
こうなるとめちゃめちゃうるさいし、若干めんどくさい。
とにかく俺は今悲しいからそーっとしておいて欲しい。
ユーゴ
「なんでもないっ、」
俺の言葉を最後まで聞くことなく、強く抱きしめられる。
ジェシー
「なんでもないわけないじゃん!
何があったの?僕にはちゃんと言って!」
ユーゴ
「本当、どうでもいいことだからさ」
エアコンが壊れた。
洗濯機が壊れた。
電球が点かない。
レコーダーが壊れて見たかった番組が録れてない。
多分明日以降の番組も録れないだろう。
1つ1つ、よくよく考えてみればどうしようもないことばかりだ。
どうしようもない悩みはいつだって、結局のところどうにもならないことばかりだ。
ジェシー
「どうでもいいことでユーゴはこんな悲しい顔にならないのはわかってる!」
抱きしめるのをやめて、俺の両肩を掴み真剣な眼差しを向けて話すジェシーに圧倒される。
多分こいつには言い逃れできない、はたから見たら絶対にくだらない話であろう俺の悲しみを潔く白状するしかない。
ユーゴ
「エアコン、また壊れちゃった…。
部屋寒い。
洗濯機、変な音がして動かなくなっちゃった。
お風呂の脱衣所の電球、ジェシーに替えて貰ったばっかりなのに切れちゃった。
レコーダー壊れたみたいで、歌番組の録画が途中で切れてた。」
ジェシー
「歌番組…あっ、○葉ちゃん!」
ユーゴ
「うん・・・。
金曜日のドラマも、土曜日の動物番組も、日曜日のロケ番組も…多分録れないかも。
ほら、どうでもいいだろ?」
ジェシー
「これは…大変だ。」
ユーゴ
「は?こんなものが大変な部類に入るのか?」
ジェシー
「僕の魔法じゃあ、経年劣化したものは直せない…」
ユーゴ
「まぁ、寿命には抗えないよな。」
ジェシー
「ユーゴ、寒がりなのにお部屋暖めてなくてごめん。」
ユーゴ
「いやぁ、ジェシーは暑がりだから。
俺が帰ってきてから室温調整するけど。」
ジェシー
「寝室のちっちゃい電気ストーブこっちに持ってこよう!応急処置!
エアコンは早く買わないともっと寒くなるね。
明日か明後日には電気屋さんで買いにいこう。」
ユーゴ
「週末まで授業とバイト詰まってる。」
ジェシー
「土曜日の朝にお買い物だね。」
ユーゴ
「うん。」
ジェシー
「HEHE、久しぶりにデートだね♡」
ユーゴ
「いや、毎日デートしてるみたいなもんだろ?
こうやって一緒に暮らしてるわけだし。
大学とかバイトの往復はジェシーが送り迎えしてくれてるしさ。」
ジェシー
「HEHE、そうなんだけどね。」
ユーゴ
「こたつもそろそろ出そうか。」
ジェシー
「そうだね!
去年あったかくて感動したんだよ!
あんな素敵なテーブルは魔界になかったからびっくりしちゃって!
そうそう!
電球は…これ、今買ってきた。
さっきユーゴ迎えに行く前から点かなかったんだよね。」
ユーゴ
「お、さんきゅ。
でも先週変えたばっかだよ。」
ジェシー
「まぁ。やってみよーよ!
箱に残ってた電球だから古かったのかもよ。
これね〜明るくて長持ちするんだって〜!」
と言うと結構高いところにあって、俺でも頑張って背伸びしないと届かない天井の電球をいとも簡単に取り替える。
高身長、184cm。俺より9cmも高い。
羨ましくて更にへこむ。
ジェシー
「ほら!点いたよ!
やってみて良かったじゃん!」
ユーゴ
「本当だ。」
ジェシー
「洗濯機とレコーダーも一緒にお買い物だね。
溜まったポイント何に使おう?AHAHA!」
ユーゴ
「先に洗濯機買って、溜まったポイント使ってエアコンとレコーダー買う。
洗濯機高いからポイントたくさん付くからね。
あ、もしかして!
(ガサゴソ…)
ユーゴ
「あったー!!
洗濯機の保証書!
ギリギリ保証期限内だ!
まだ無料で修理してもらえる!
そしたら、エアコン買って溜まったポイントでレコーダー買う!
残ったポイントでまた何か買おう!」
ジェシー
「ユーゴすごい!天才!」
ユーゴ
「洗濯機買うまではコインランドリーでいっか。
コンビニの隣にあるからさ、明日頼んでいい?」
ジェシー
「AHAHA!楽しみ〜!行って来るね!」
ユーゴ
「難しかったら無理すんなよ。
バイト終わったら俺行くから。」
ジェシー
「だぁいじょうぶ!任せて!
ユーゴはレコーダーのHDDに残ってる録画をダビングしてた方がいいよ。
録画どころか再生もできなくなっちゃったら心配だから大事なやつだけでも早いうちにやっといた方がいいと思う。
ダビングしちゃえば買い替えても安心でしょ。
今日録画できなかった番組は…
そうだ!確かミュージカル特集やってたはず!
多分タイガんちで録画してるかもしれないよ!ほら、本業はミュージカル俳優だし!
聞いてみてさぁ、録画してたら今度見せてもらおう!!
あと、○葉さんのドラマとバラエティは今無料アプリで見れるの多いから。
ほら、番組の最後によく言ってるじゃん?」
ユーゴ
「あー、見逃し配信?」
ジェシー
「色々探してみようよ。
ついでに色んなの見ちゃおう!HAHA!」
ユーゴ
「うん。そうだね。」
ジェシー
「○葉ちゃんの番組は大事だよ。
ユーゴいつも楽しそうに見てるもん。
悔しいけど、僕は○葉ちゃんには勝てない。」
-なんだろう…。
悲しくてザワザワしてて、そこに響くジェシーの声がうるさくて、黙って欲しいと思ったけど。
俺にかける言葉の1つ1つが優しくて。
アドバイスが的確で。
心がフワッと軽くなった気がする。
ジェシー
「あとは…」
ユーゴ
「もう壊れたもんないよ。ありがとう。」
ジェシー
「待って、他にもあるよ。」
ユーゴ
「え?何かあったか?」
ギュッと抱きしめられ、背中をポンポンと優しく叩かれる。
そっか、壊れてるものって。俺のことか。
俺、さっき壊れたものたちを強めにバンバン叩いてたけど。
ジェシーは壊れかけた俺にこんなに優しくしてくれるんだ。
ジェシー
「僕の1番大事な人が壊れてた。
治してあげられたらいいな。」
ユーゴ
「おかげさまで治ったみたい。
ありがとな。ジェシー。」
ジェシー
「ホント?」
ユーゴ
「強いて言えば、お前の身長が高すぎて羨ましいくらい。」
ジェシー
「AHAHA!よかった!!
ユーゴ、つらいときは1人になろうとしちゃダメだよ。どんなに小さいことでもいいから、僕に言って。」
ユーゴ
「え?じゃあ1人になりたいときどうすりゃいいの。笑笑」
ジェシー
「1人になっちゃうと壊れても直してあげられないから。
ユーゴのことなら1人で思い詰めてどんどん悪い方に行くでしょ?」
ユーゴ
「あ〜。悔しいけどおっしゃる通りだわ。」
ジェシー、ありがとう。
お前は最高の友達だ。
お前が壊れそうなときはいつでも俺を頼れよ。
そんときは…俺がお前のこと治してやる。
(終)
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